飄々とした彼へ
6年前か・・・ある絵画展に出向き、一点の絵に心奪われてしまった。
ニッポンの国宝100に選ばれる仏像で、熱心なファンもいるほどだ。
三つの顔を持ち六本の腕を持つ阿修羅像は
【三面六臂（さんめんろっぴ）】とも呼ばれていて、
一人で何人分の働きをし、多方面にわたって活躍することだ。
お顔が少年、ということもあり人気のひとつなのかもしれない。
6年前は大病を患ってから1年の経過となり、これからの不安や、
仕事への復帰、ご心配をおかけした方々への恩返しなどを考えていたと思う。
あれからである。
何ら変わりもなく、のんべんだらりと月日は流れ、定年は目の前となった。
この春、同じ年の彼は退職（引退）するという。
彼と知り合ったのはネット。
いわゆるSNSであります。
最初はコメントを書いたり書かれたりの関係だった。
彼の人脈は多岐にわたり、人が人を呼ぶご縁につながり、
実際にお会いし、何度もお酒を酌み交わすうちに
改めて同い年とは思えない考えの深さに魅了されていった。
彼の仕事は大変な仕事のはずだが、平日でも平気で飲みに行き、
休みともなると、奥様を連れだってツーリングやキャンプや山登り。
東日本大震災の被災地を、年一回訪れられ、現地の方とも交流がある。
ある高校でお話をされたり、講演活動の主催をされたり、
ミャンマーのとある村の里親としての支援活動。
そして英語の勉強と・・・
枚挙にいとまがないとはこのことだ。
どこからが仕事で、どこからがプライベートなのだろう？
世間一般的に、現役の頃にはなにかしらの縛りがあり、
休日の“遊び”も本気で遊ぶことができない。
縛りあるがゆえの ストレス発散 程度に自身を縛っている。
と、思うのはわたしだけだろうか・・・
退職後の計画を聞くと・・・
〇ー〇〇というキーワード
いい年をして、ナニ考えてんの！
と、ふつうの人はツッコみたくなる。（もちろんわたしも）
それは、不自由な現役（わたし）のひがみなのだ。
そんなこというと、彼は少年のような顔をしてこう返すだろう。
『ひろさん。いい年だから遊ぶんだよ』
ちょうど1年前かな？
新型コロナウィルスがまん延しだし、慢性的なマスク不足に陥った。
どこのドラッグストアに行っても入荷待ちの状態で、
残り少ない不織布マスクを、手洗いして再使用していた時。
彼のところへ連絡し、どこかにマスクがないのか聞いてみた。
「うちも少ないんだわ。従業員にも支給しないといけないし・・・ごめんね」
医療関係ともなればソレは当たり前で、聞いたこちらが恥ずかしくなった。
その30分後、うちの車庫にそっとマスクが届けられていた。
見つけた時 泣いた。
今思い出しても熱いものが込み上げてくる。
そのマスクは今も使わずに取ってある。
ありがたくて・・・ありがたくて・・・ありがたくて
彼の今後は今以上に三面六臂の活躍となるだろう。
飄々とした彼へ、リスペクトの言葉を添えて。
